2024.05.12

「白鵬処分」にみる閉鎖性と不透明さ。「叱られ体質」の相撲協会を変革する「第二の笠置山」は、きっといる!

若手力士の活躍で盛り上がる一方、宮城野部屋の事実上の「閉鎖」や、二所ノ関部屋の「アルハラ疑惑」など相変わらず問題も絶えない相撲界。時代に翻弄されながら愛され続ける大相撲の近代史を描いた『叱られ、愛され、大相撲! 「国技」と「興行」の100年史』(講談社選書メチエ)の著者、胎中千鶴氏は、「いま相撲界に必要なのは〈笠置山〉のような人材だ」という。昭和前期のインテリ力士「笠置山」とは、いったい何者なのか――。

「白鵬問題」厳しい処分はなぜ?

5月場所の幕が開いたばかりの大相撲。すでに4月時点でチケット完売という人気ぶりだが、一方で最近また角界のスキャンダルが報じられている。

今年2月、宮城野親方(元横綱・白鵬)が弟子の暴力問題の監督責任などを問われて日本相撲協会から懲戒処分を受け、宮城野部屋は事実上の閉鎖となった。2月には二所ノ関部屋の幕内・大の里が同じ部屋の20歳未満の力士と酒を飲んだことが発覚、二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)とともに厳重注意を受けた。

とりわけ宮城野部屋の問題は世間の注目を浴びた。白鵬は史上最多45回の優勝経験をもつ稀代の大横綱。引退後は子ども相撲大会「白鵬杯」の主催などに尽力している。弟子の育成にも熱心で、指導者としても期待を集める特別な存在だ。

宮城野部屋の元幕内・北青鵬が後輩力士に暴行を繰り返したとされるこの事件は、相撲部屋の閉鎖性や協会のガバナンス不全をあらわすもので、深刻な案件であることはいうまでもない。一方で、部屋の唐突な閉鎖は他の親方が起こした不祥事とくらべても厳しすぎる印象があるため、世間の憶測を呼び、相撲ファンからも批判の声があがっている。

それにしても角界の不祥事が取りざたされるたびに痛感するのは、相撲協会の情報開示力の欠如である。宮城野親方はどういう基準でこのような処分を受けたのか、前例との整合性はどの点にあるのか、そうした合理的な説明が一切ないのだ。

そのためメディアや相撲ファンは協会周辺から流れてくる確証のない噂に振り回される。ネット記事によく登場する「ある親方」「協会関係者」は実在するのかどうかさえ怪しいが、ファンとしてはとにかくこうした周辺情報を収集するしかなく、スキャンダルが起きるたびにイライラがつのるのである。

昭和初年の両国国技館

相撲協会「叱られ体質」の100年

実はこうした日本相撲協会の閉鎖性や不透明な運営手法は今に始まったことではない。筆者は拙著『叱られ、愛され、大相撲!』(講談社選書メチエ)で、明治期以降から現在までの大相撲100年史を描いた。史料をめくりながら痛感したのは、「大相撲はこの100年、ずっと世の中から叱られ続けている」ということである。

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