【シリーズ・小林快次の「極北の恐竜たち」】
今から何千万年も昔に、地球の陸上に君臨していた恐竜たち。シダ類やソテツ類の茂った暖かい地域で暮らしていたイメージがあるかもしれないが、彼らは地球上のあらゆるところに進出していた。南極大陸からも、北極圏からも恐竜の化石は発見されているのだ。
この連載では、北極圏のアラスカで15年以上にわたって調査を続ける筆者が、極圏での厳しい環境で、どのように恐竜たちが暮らしていたのか、その生態と進化の謎に挑むーー。
ノーススロープのハドロサウルス科は「1種だけ」だったのか
ノーススロープのリスコム恐竜化石産地から、数千の骨が発見されていると紹介した。しかも、その多数の骨の中には、肉食恐竜や他の植物食恐竜の骨も含まれている。ここで一つ疑問が生まれる。このリスコム恐竜化石産地で見つかったハドロサウルス科の骨はすべてエドモントサウルスのものなのだろうか?
この疑問に答えるために再度登場するのが、前回の記事で、新種だと考えられていたウグルナアルクが、既知の種であるエドモントサウルスと同種であることを指摘した高崎竜司氏だ。
高崎氏はアラスカのハドロサウルス科恐竜の研究のために、標本が保管されているテキサス州ダラスを訪れた。そこで、彼は驚くべき発見をした。エドモントサウルスと分類されていた棚の中に異なる恐竜の骨を発見したのだ。
この骨は、上後頭骨と呼ばれる頭の後ろに位置する骨で、エドモントサウルスと同じハドロサウルス科恐竜ではあるものの、ランベオサウルス亜科という別のグループのものであることがわかった。
ランベオサウルス亜科の特徴
高崎氏が発見したランベオサウルス亜科は、エドモントサウルスと同じくハドロサウルス科に属すが、上後頭骨は以下のような独自の特徴を持っていた。ランベオサウルス亜科の上後頭骨には、エドモントサウルスには見られない大きな突起があり、これにより頭の後部がより複雑な形状のトサカを持っていたことがわかった。
トサカは、ランベオサウルス亜科がどのように頭を使っていたかを示唆している。たとえば繁殖行動や種内競争において特別な役割を果たしていた可能性もあっただろう。
また、ランベオサウルス亜科の上後頭骨には、鱗状骨(りんじょうこつ)との関節部が大きく発達しており、これが頭の動きや構造に影響をあたえていたと考えられた。これにより、発見されたランベオサウルス亜科はエドモントサウルスとは異なる方法で頭を動かしていた可能性が考えられた。
発見された標本に限らず、一般的にランベオサウルス亜科は、体の構造や骨の配置にもエドモントサウルスとは異なる点が多く見られ、彼らが異なる生態ニッチを占めていた可能性が考えられている。
全体的な骨格の違いとして、ランベオサウルス亜科はエドモントサウルスよりも骨格が軽量であり、これにより異なる環境での適応が可能だったと考えられている。
たとえば、より軽量な体は内陸の森林地帯での生活に適していたかもしれない。また、脚の構造としては、ランベオサウルス亜科の脚の骨はエドモントサウルスに比べて長く、移動範囲が広かった可能性があり、より広い範囲で食物を探すことができ、異なる植物資源を利用していたのだろう。