2024.06.12

地球のどこまで「生命」は存在するのか? 海底下の微生物から見えた「生命現象」を考える

世界に3ヵ所ある海底下から採取したコア試料保管庫のひとつである高知コア研究所。ここで管理されているコア試料は、海底下に生きる微生物の研究にも用いられています。栄養源に乏しい海底下の世界で生命はどのように生きているのか? 海洋研究開発機構(JAMSTEC)超先鋭研究開発部門 高知コア研究所の星野辰彦主任研究員に、海底下の生命について、そして「生命現象」そのものへの謎についてお話を伺いました(取材・文:岡田仁志)

星野辰彦主任研究員(撮影:市谷明美/講談社写真部)

――いま星野さんはJAMSTECで、海底下にいる微生物の研究をされています。どういう経緯で、この分野がご専門になったのですか?

子どものころから地球生命の謎に興味があって……という話を期待されるかもしれませんが、全然違うんです(笑)。もともとは、排水処理プロセスの中にいる微生物の研究をしていました。どちらかというと、工学寄りの分野ですね。

工場などの施設からの排水は、河川や下水に流す前に、有機物や窒素やリンを除去するのが大事なんです。それらの反応、例えば窒素をN2ガスにして大気中に除去する反応は微生物がやってくれるんですね。地球上でふつうに起きているプロセスの縮図が排水処理のプロセスで起きているので、いまの研究とまったく無関係ではありません。

でも、海底下の堆積物のことは、JAMSTECに来るまではまったく知りませんでした。いまだに、「白亜紀」とか「ジュラ紀」とか聞いても何年前なのかすぐにはピンと来ませんね(笑)。海底下に微生物がいることは知っていましたが、「まあ、微生物はどこにでもいるから、海底下にもいるんだろうな」という程度の認識でした。

いるのか? いないか? 微生物を見るには

――そういう星野さんが、なぜJAMSTECで海底下生命圏の研究をすることに?

僕が前の職場でおもにやっていたのは、顕微鏡で微生物の種類や機能を見分ける手法の開発でした。やや専門的な話になりますが、微生物の種類を見分けるためには、すべての生き物が持っている「リボソーマルRNA(タンパク質合成反応を担う細胞小器官リボソームに含まれるRNA)」という分子をターゲットにします。その配列を見ると、生物の種類がわかるんですね。

DNAの遺伝情報をメッセンジャーRNA(mRNA)に写し取り「転写」、mRNAのコピー情報を読み取ってタンパク質を合成する作業「翻訳」が行われています。この翻訳は、リボソームとよばれる細胞内小器官が担っています。リボソームはRNAとタンパク質からできた特殊な構造をしていて、その構成RNAがリボソーマルRNA(rRNA)と呼ばれます。(図版作成:酒井春)
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一方、微生物の機能を知るには、「機能遺伝子」をターゲットにしなければなりません。リボソーマルRNAは細胞内に多ければ数万コピーぐらいあるので染色して光らせやすいのですが、機能遺伝子は数コピーしかないので見るのが難しいんです。

僕は、細胞の中でその機能遺伝子を増幅して検出する方法を研究していました。排水処理プロセスの中で窒素を除去する細菌をターゲットにして、窒素除去に関わるシングルコピーの機能遺伝子を細胞内で検出する。それを微生物の種類の検出と同時に行う手法を開発したんです。

それが海底下の微生物研究にも役に立つということで、JAMSTECに来ました。それまで扱っていた工学的なプロセスは人為的にコントロールできるので、自然環境中で起こっている普遍的な原理・法則的なものが見えにくいんですね。ピュアサイエンスもやってみたいと思っていたこともあって、2009年にこちらに移りました。

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