「健康と食」への危機感が、これほどまでに高まったことがあるでしょうか。
「腸内フローラを良好にし、便通を改善する」ビフィズス菌配合サプリメント。「脂肪の吸収を抑え、排出を増加させる」トクホコーラ。「10分のジョギングと同じ消費カロリー効果がある」高濃度茶カテキン飲料。
国の制度によって「効能・効果」を大々的にアピールするトクホや機能性表示食品などの「保健機能食品」。いまや、私たちのまわりには、「健康食品」が溢れんばかりにあります。しかし最近、機能性表示食品の摂取によって、大きな健康被害が生じる事故が起こり、その安全性への信頼が揺らいでいます。
氾濫する「健康関連食品」情報 をたんねんな調査で読み解き、長年にわたって問題点を指摘してきた群馬大学名誉教授・高橋久仁子さんが、保健機能食品制度の“根拠”とされる論文を解読してわかった「驚きの実態」を克明にリポートした『「健康食品」ウソ・ホント』から、ぜひ知っておきたいトピックを厳選してお送りしましょう。
※本記事は、『「健康食品」ウソ・ホント 「効能・効果」の科学的根拠を検証する』から、再編集・再構成の上、お届けします。
食品の良し悪しは「食べ方」で決まる
仕事柄、「○○って体に良いんですか?」(○○は食品、または食品成分)と、質問されることがよくあります。正直にいって、そのたびに返答に窮しています。なぜなら、どんな食品でも、一般論として単純に「体に良い/悪い」と断定できないからです。「あなたは『それ』に何を期待しているのですか?」と問い返してからでないと、誠実に答えることができません。
ある特定の食品が体に「良い」か「悪い」かは、「それを食べるのは誰か」によって個別に判断しなければなりません。たとえ同じ人であっても、ある状況では「良い」ものが、別の状況では「悪い」こともありえます。
たとえば、甘いチョコレートそれ自体が「体に良い/悪い」という絶対的な価値をもつわけではありません。チョコレートは、砂糖も脂質もたっぷり含む食品です。ハイキングや運動をしている最中のように、迅速にエネルギー補給したい場合には「良い」食品ですが、就寝前に食べるのはどうでしょうか。「悪い」といわざるを得ない場合がほとんどでしょう。
「玄米は精白米より体に良い」はどうでしょう?
玄米は果皮や胚芽を取り除いていないため、精白米よりも多様な栄養成分を含んでいますが、消化・吸収に難があります。胃腸が丈夫で食欲旺盛な人であれば、食べすぎ防止の効果をもつ点などを含めて「良い」といえるかもしれません。しかし、胃腸があまり丈夫でない小食の人の場合には、玄米では十分な量を食べることができず、総エネルギーやタンパク質、脂質の不足等を招きかねません。このようなケースでは、「悪い」と判断することもありうるのです。
加えて、「味わい」も無視することはできません。玄米ご飯をおいしいと感じる人はそれでけっこうです。でも、そうは思わない人が「健康のためにはまずくても仕方ない 」と我慢して食べるのは、少々悲しい気がします。
食品を「良い/悪い」と二分し、「良い」といわれるものだけを食べ、「悪い」とされるものを排除しても、決して「良い食生活」になるわけではありません。「ヘルシー」をウリにする食品がいろいろありますが、「ヘルシーといわれる食品」を集めて片っ端から食べたとしても、「ヘルシーな食生活」が実現するわけではありません。食生活全体の調和がとれて初めて、「ヘルシーな食生活」になるのです。
それぞれの食品には、栄養素の含まれ方や消化性などにさまざまな違いがあります。その特徴を知り、「今の自分」との関係を十分に考えて選び、量に配慮して食べる。これこそが何よりも重要です。
ある食品を体に「良いもの」にするのも「悪いもの」にするのも、私たち一人ひとりの「食べ方」が決めるのです。
食生活全体の調和がとれて初めて、「ヘルシーな食生活」になる photo by gettyimages
食品中の微量成分「機能性成分」に期待しすぎ!?
炭水化物・タンパク質・脂質の三大栄養素にビタミンと無機質を加えて「五大栄養素」とよぶことは、義務教育の段階で誰もが学びます。
これら五大栄養素を食事から適切に摂取することを心がけていれば、それ以外のわずかに必要とする物質はだいたい付随してきます。ところが現在、五大栄養素を食事から適切に摂取することよりも、ごくごく微量に必要な物質、いわゆる「機能性成分」に過剰なまでの関心と期待が集まっている状況が生まれています。
エネルギーや栄養素は、自分の体に必要な、適正な量を摂取することが大事です。多すぎても少なすぎてもいけません。
不足すると発育不良ややせ、生理機能不全や感染症への抵抗力の低下といった問題を引き起こします。
栄養失調のために感染症にかかりやすくなるという状況は、今の日本ではあまり考えられないことですが、発展途上国ではこんにちにおいてなお大きな問題となっています。そして、食べるものがたくさんある日本を含めた先進工業諸国においても、偏(かたよ)った食事法にのめり込んだ人々が自らを、あるいは乳幼児を栄養失調状態に追いやって、健康状態を悪化させている事例が存在します。
一方で、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回る状況が継続すると、肥満やそれに伴う健康障害が起こることは周知の事実です。そして、ビタミンや無機質等の栄養素も、余計に摂りすぎれば過剰症が起こるものもあります。繰り返しますが、多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけないのです。適正量を摂るーー何よりもこれが大切なことです。
ところが世の中の関心は、食品中の微量成分、いわゆる「機能性成分」に向けられています。そしてその「機能性成分」を摂取すれば、あたかもその「機能性」が得られるかのような大いなる誤解が蔓延しています。特にこの30年ほどは、その蔓延を助長するような制度がつくられてきました。