仙台・青葉山に巨大UFOが着地…?「次世代放射光施設・ナノテラス」がスゴイ!
直径170メートルの巨大顕微鏡
2023年5月12日から3日間、仙台市でG7(先進7ヵ国)科学技術大臣会合が開催されたが、その最終日、各国大臣らは仙台市青葉区の東北大学青葉キャンパスの高台にある次世代放射光施設「ナノテラス=NanoTerasu」を訪れた。地元メディアは大きく報道したが、全国ニュースとしての扱いは小さかったので、「知らなかった」という人も多いのではないか。
東北大学青葉山新キャンパスに出現したナノテラスの空撮写真を見ると、巨大UFOかと見紛う威容だ。ドーナツ型建屋の直径は170mもある。
ナノテラスは、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長・平野俊夫(当時))と一般財団法人光科学イノベーションセンター(理事長・高田昌樹)によって2019年3月に着工。今年5月11日に除幕式を行い、来年度からの運用開始に向けて現在は加速器の試運転を実施している。
未完成の科学施設にG7の科学技術大臣が揃って訪れたのは、この施設がカーボンニュートラルなど未来の課題解決の世界的拠点になる期待が大きいからなのである。
ちなみにナノテラスは東北大学の敷地内、青葉山新キャンパスにあるが、実は、東北大学の施設ではない。非常に堅牢な地盤である青葉山新キャンパスの敷地の一部を東北大学に借地して建造されたのである。
ナノテラスは、簡単に言えばモノを「ナノサイズ」で見ることができる巨大顕微鏡だ。1n(ナノ)mは10億分の1mを指すが、ナノテラスは分子(10nm)、さらに原子(0.1nm)の挙動を高い解像度で可視化できるのがスゴイ。
ナノテラスという愛称は2022年6月、公募案から選ばれたが、量子科学技術研究開発機構と光科学イノベーションセンターは、以下の内容のリリースを発表している。
NanoTerasu(ナノテラス)という愛称は、次世代放射光施設が研究や観察の対象としている、物質の「ナノ(10億分の1)の世界」を示し、さらに放射光がナノの世界を明るく照らして観察する強力な光であるという、施設の大きな特徴を良く表している。
また愛称応募者から「日本神話で世の中を照らす『天照大御神』(あまてらすおおみかみ)のように、この施設で行われる研究やその成果が、世界の学術や産業にも豊かな実りをもたらして欲しいという願いから付けた」という説明も選考された理由である。
スマホの心臓部でもある大規模集積回(LSI)は、150億個以上のトランジスタなどのパーツを指先に乗るほどの大きさに詰め込んだ電子部品だが、部品をつなぐ配線の幅(線幅)が小さければ小さいほど消費電力が少なく処理速度を速くできる。配線の「線幅」を狭くする技術は分子より小さい5nmにまで達している。
そのナノ世界を極められるかに半導体メーカーの命運がかかっており、ものづくりは「ナノレベルで勝負」の時代に入っている。
ナノ技術は、自動車のエコタイヤ開発、強度不足の宿命にある再生プラスチックの進化、EV(電気自動車)の理想的な充電池、化粧品や効果が高い治療薬、高品質の炭素繊維、海水淡水化用水処理膜など、多くの分野でのイノベーションに必須となりつつある。
ナノ世界の製品開発には、ナノレベルで何が起こっているかを「見る」ことができなければお話にならないが、その手段を持たないメーカーも多い。ナノテラスの使命はそこにある。ナノテラスは、先進のナノ技術で圧倒的な「日本力」を目指そうという野心に満ちた、痛快きわまりない巨大科学施設なのだ。