今年は島根県を訪れる機会が多く、念願だった出雲大社への参拝も果たしました。出雲大社は言わずと知れた日本三大神社の一つですね。最近は「最強の縁結びパワースポット」として若者や海外の旅行客にも大人気だと聞きました。そんな出雲大社のアイコンといえばーーそう、あの「ぶっとい」しめ縄です。
正直に告白すると、私はあのような縄目を見ると、自然にテンションが上がってしまいます。それは決して私が特殊な「クセ」持っているからではなく(おそらく……)、手術における最重要手技と言える「糸結び(糸で何かを縛る操作)」のフェチだからです。
今回はこの「糸結び」を上手に行うためのコツを、手術書より分かりやすく解説してみようと思います。原理さえ理解すれば決して難しいことではありません(あとは練習あるのみ!)。
もちろん、外科医でない皆さんが患者さんの体内で糸を縛ることはありませんが、日々の生活の中で何かを「縛る」、「結ぶ」機会はたくさんありますね。例えば、靴紐、ごみ袋、浴衣の帯、荷造り……などなど。手術用の縛り方をマスターしておくと、もしかすると日常生活にも役に立つかもしれませんよ!
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「縛る」、「結ぶ」が手術のキホン
手術の工程を簡略化する医療用機器の進歩には目覚ましいものがあります。しかし今でも、手術中には文字通り「糸」で臓器を縫ったり、血管を縛ったりするシチュエーションが多々あります。もう少し詳しく説明すると、針糸の役割は
- 血管を切る前に、血が出ないように縛る(結紮[けっさつ])
- 出血しているところを縫い閉じる(Z縫合など)
- 臓器や腹壁を縫い合わせる(縫合、吻合)
の3つに分類できます(図1「針糸の役割」)。これらの操作は執刀医や助手が、針が連結された糸を用いてまさに「お裁縫」のように行うのですが、もしこの縛り目、結び目が緩かったらどうなるでしょう?
手術中に血管の切り口から出血する分には、その場で修復できるからまだマシかもしれません。しかし、徐々に結び目が緩めば、手術後に再出血をきたしたり、腸の縫い目が破綻したりして、患者さんの命に係わる合併症に繋がる可能性があります。
かといって、めちゃくちゃ強く縛れば血管や腸を引きちぎってしまう恐れがありますね。つまり、組織の抵抗を感じながら「最適な強さ」で、しかも「素早く」糸を結ぶ技術が要求されることになります。
私が研修医の頃は、血管を「縛らずに出血なく切る」ことができる手術ディバイスが洗練されていなかったため、今よりも圧倒的に針糸の使用率が高かった記憶があります。
つまり、糸結びの確実性と速さが手術成績(出血量や手術時間)に直結する時代でした。私が師事した教授は、助手の技能を確認するためなのか、時に「糸よりも細い血管(電気メスで焼いても絶対出血しないような血管)」を縛らせることもありました。助手が糸結びを2回、3回と続けて失敗しようものなら……「手をおろせ!」、「出ていけ!!」と交代を命じられる、TVドラマよりもドラマチックで緊張感Maxな場面を実際に見たこともあります。
自分が教授と呼ばれるようになった今、一度は「出ていけ!」と叫んでみたい気持ちもたまに芽生えるので、そのチャンスを伺っているのですが……症例数が多い南大阪の手術室で鍛えられてきた当科の医局員たちはなかなかスキを見せてくれません。