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アート思考をビジネスへ実践する――自分軸からビジョンを描く「未来創発思考」とは

サービスデザインコンサルティング部 山崎 栞奈

#価値共創

#DX

#UX/UIデザイン

2024/07/10

2018年に経済産業省と特許庁が「デザイン経営宣言」を発表して以降、デザインやアートの思考法をビジネスに取り入れる企業が増えています。アーティストが常識にとらわれずに自分の内面から作品を生み出す思考プロセスに着目し、個人の想いやアイデアをビジネスの現場へ活かす「未来創発思考」研修を開発したNRIの山崎栞奈に、アート思考やクリエイティブ人材の育成について聞きました。

ビジネスパーソンの新しい武器

近年、ビジネスにアート思考が求められている背景には、いくつかの要因があります。まずAI(人工知能)の台頭です。さまざまな仕事がAIに代替される時代に、人間にしかできない感性や創造性が求められています。また、企業間競争が激化する中、データに基づく効率的なサービス開発やロジカルな分析的アプローチだけでは、どの企業もオリジナリティを出しづらくなっていると、山崎は指摘します。「先の読めないVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)時代には、自社がなぜこの事業を目指すのかというパーパスが問われます。社員一人ひとりが自分の好きなこと(自分軸)や、内面に沸き起こる興味関心による内発的動機付けを見つめ直し、自らの価値観と仕事の領域を重ね合わせる視点をもつこと、常にその感性を磨くことがビジネスパーソンの新しい武器になると思います」。

アートは答えがない分、自由に発想し、型にはまらないアイディエーション、コンセプト設計ができる最大のメリットがあります。自分の想いや理想の姿を視覚化し、カタチに表すことにより、周りのステークホルダーに言葉だけでは伝わりづらい漠然とした考えを高い解像度で伝えることができます。そんなアートがビジネスにもたらす価値がある一方で、いまだにビジネスとアートは関係ないと考える人や、自分にはセンスが無いのでアートを取り入れることが難しいと感じている人が多いと、美大出身の山崎は話します。「これまでのビジネスシーンではロジカルな説明が求められてきたので、どうしても左脳ばかり駆使します。創造性や感性を司る右脳を使い慣れていないだけで、普段の会議からひらめきや直感を大切に発言してみることから、頭を柔らかくする習慣を身につけることができます」。

自分軸を起点に0⇒1でアイデアを生み出す

こうした問題意識からNRIが独自に開発したのが「未来創発思考」研修です。アーティストは作品を通じて自分の思い描く世界観を表現し、問いを投げかけます。それと同じように、ビジネスパーソンも「自分軸」をベースに理想のビジョンを構想し、未来創発的にアイデアを生み出し、アート思考をビジネスの中で実践するステップを体系立てて学べるようにしたいと山崎は考えました。似て非なるデザイン思考との違いは、ユーザーの課題を発見し解決へ導く「ユーザー視点型」であるのに対し、アート思考は自分自身の想いを起点とした内発的な発想の「自分起点型」です。自分の好きなこと、感性や価値観、幼少期の原体験など自分の内面自己探索から出発する点も研修の大きな特徴となっています。

「自分軸からビジョンをビジネスにつなげた好例がソニーのウォークマンです。クラシック音楽が好きだった創業者の井深大さんの自分軸をベースに、移動中にきれいな音でクラシック音楽が聴きたいという理想像を思い描いたことから、画期的な製品が誕生しました。このように自分の好きなことから、理想とする世界観を描き、バックキャスティングによってアイデア発想することを重視しています」

参加者は、最初にアート思考に関する座学を受けた後、ファシリテータによる問いかけにより対話をしながらアート鑑賞を深め、みる力・考える力・言葉にする力・聴く力などを養います。その後、ワークシートを用いてステップ1の原体験・価値観の「自分軸」を言語化した後、ステップ2では参加企業が抱えるテーマにおいて、社員一人ひとりが将来のありたい姿やビジョンについてコラージュ手法(紙の切り貼り)を用いて可視化します。山崎がフレームワーク化する際に意識した点は、手を動かして楽しかっただけで終わらせないことです。「バックキャスティングでアイデアを具体化し、研修後も参加企業の中で実施検討いただけるところまで研修内で行うようにしました。また、研修の事前に参加企業の担当者の方と会話を重ね、企業ごとに個別最適化したテーマ設定にアレンジしています」。

アートとビジネスを橋渡しする

未来創発思考研修では、アート思考を用いたワークショップを通じて、参加者の社員一人ひとりが自分の想いをカタチにする力や、ビジョンを語る力を身に付け、組織のエンゲージメントを高めることを目指しています。コラージュ手法を用いて理想的な世界観を可視化するため、言葉にするときれいにまとまって本音が見えづらい部分も、絵にすることで普段、上司やチームメンバーは伝えられていなかったことをウィットに富んで表現することができます。新組織の立ち上げ段階の企業にも参加いただき、チームビルディングや、自組織の強みを再確認できるため、参加者の満足度は非常に高く、山崎は手応えを感じています。

今後はさらに参加企業を拡大し、アートの力を通して社会全体にイノベーションを生み出していきたいと山崎は語ります。「学生の頃から、アートと社会・ビジネスを橋渡しする存在になりたいと考えてきました。答えのない未知の世界を切り拓くために、アートやクリエイティブマインドを経営資源として企業に取り入れることの大切さを経営層の方々に伝えながら、伴走支援していきたいと思っています」。

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