知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)技術奪取防止の強化対策運用開始

2024年09月11日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.192)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)

2024年8月21日から、「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」(以下、「不正競争防止法」)および「特許法」が改正され、技術奪取行為に対する懲罰的損害賠償の限度が3倍から5倍に強化され、アイデア奪取行為などの不正競争行為に対し、特許庁長が是正命令を下すことができるようになりました。不履行時には最高2,000万ウォン以下の罰金が科されることとなります。

1.概要

今回の法改正により、「不正競争防止法」および「特許法」の2つの法律を改正し、全体として技術奪取行為等を防ぐための制度が整備されました。特許や意匠、商標、著作権、ノウハウなど、昨今のビジネスにおいて知財の果たす役割は非常に重要なものとなっています。これらの知的財産は、アイデア等無形の資産であるため、他人に奪取やフリーライドされる可能性が有形資産に比して高く、これを防ぐことが健全なビジネスを推進するうえで必要となっています。この対策として、従前よりもより厳しい規定を整備し、技術奪取行為等を防ぐ目的で、種々の法改正が行われ、2024年8月21日からその内容が運用開始となりました。

2.主な内容

今回の法改正のなかで、特に重要な観点を以下のとおり紹介します。

2.1.技術奪取の懲罰的損害賠償

特許権などの技術奪取行為が認められた場合、懲罰的損害賠償としての限度が3倍から5倍に引き上げられました。これまでは、3倍の限度までいわゆる懲罰賠償が認められていたところ、今後は5倍までを限度として、懲罰賠償が認められることとなります。今年度に入ってから、韓国においても懲罰賠償を認める判決が出たこともあり、今後社会的背景も踏まえて、多額の懲罰賠償を認める判断がなされる可能性があります。この改正目的は、「技術を開発して特許や営業秘密などを保有するよりは「技術を真似した方が利益になる」という認識が広がり、被害企業の立場では訴訟で勝っても損害賠償額が十分ではないため、訴訟を諦めるケースが多くなるなど、悪循環を改善するための措置である」と韓国特許庁のプレスリリースにおいて解説されています。さらに、5倍を限度とする懲罰賠償は国内外の法令と比べても非常に高い水準であり、営業秘密に対し強力な保護措置を取っている米国の場合も最大2倍までの懲罰賠償を科しており、5倍賠償は中国が唯一であったという点も解説がなされています。今回の法改正により、日本も含めて世界的にどのような流れになるのか注視したいと思います。

2.2.アイデア奪取行為などの不正競争行為に対し特許庁長による直接是正命令

事業提案など技術取引の過程におけるアイデア奪取行為や、有名人の氏名・肖像などを無断使用するパブリシティー権の侵害など、不正競争行為に対して特許庁長が直接是正命令を下すことが可能となりました。これまでも是正勧告を下すことは可能であったものの、強制力がなかったため、今回の改正によってより強力な措置が可能となりました。また、特許庁による是正命令に従わなかった場合、その違反行為者に対し最高2,000万ウォン以下の罰金を科すことも可能となりました。

2.3.法人に対する罰金刑3倍強化

昨今、営業秘密の侵害犯罪、不正競争行為の犯罪は、法人の加担率が非常に高い状況にあります(法人が加担した犯罪の状況:不正競争防止法の違反罪(34.3%)≫全体犯罪(1.6%))。そこで、法人による営業秘密侵害行為、不正競争行為を抑制すべく、法人に対する罰金刑を行為者に科された罰金の最大3倍まで強化する運用が開始されました。さらに、営業秘密の侵害品だけではなく、その製造設備までを全て没収する規定もを新しく設けられました。

2.4.ハッキングなどによる営業秘密の毀損・削除に対する処罰

不正取得・使用・漏洩など伝統的な営業秘密侵害行為の範囲を超えるハッキングなどによる営業秘密の毀損・削除に対しても不正競争防止法による処罰が可能になりました。時代に合わせた法改正により、現状の社会背景に対応する運用が開始されることとなります。営業秘密を不正な目的で毀損・削除する者に対しては、10年以下の懲役または5億ウォン以下の罰金刑を科すことが可能となりました。

まとめ

今回の法改正により、技術奪取行為等に対する運用が非常に強化されました。特許庁の産業財産保護協力局長が「今後も特許庁は企業が成長の原動力をなくしてしまうことが起こらないよう、技術奪取などを防ぎ、技術保護の強化に向けて取り組んでいく」と述べているとおり、企業活動の土台となる知財の保護が強化されましたので、今後の動向を注視したいと思います。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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