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3万人で「ハッピーバースデートゥーユー」を歌い、交響曲第9番(第九)などを作曲したベートーベン(1770~1827年)の誕生日を祝おうというユニークな取り組みが進んでいる。ちょうど100年前に、「第九」が日本人の手で初めて福岡市で演奏されたことにちなんだもので、企画した指揮者・木村厚太郎さん(42)は「多くの人が音楽に触れるきっかけになれば」と願っている。(今泉遼)
九大フィル
第九を国内で初めて演奏したのは1918年、現在の徳島県鳴門市で収容されていたドイツ兵捕虜だった。九州大によると、九州帝国大フィルハーモニー会(現・九大フィルハーモニー・オーケストラ)が、その約6年後の24年1月、皇太子(後の昭和天皇)の結婚を祝う奉祝演奏会で、「歓喜の歌」として知られる第九の第4楽章を初めて演奏した。
九大フィルは09年創立の伝統を誇り、クラシックの大曲に次々挑戦していたとされる。九大フィル顧問の藤本望・九大教授は「西洋音楽を知る人が少ない時代に、これほどの大曲を演奏した当時の学生は、新しい文化への興味や進取の気風があふれていたのだと想像させられる」とする。
音楽を身近に
木村さんは福岡県田川市で育ち、幼い頃からバイオリンを弾いてきた。大学で指揮を本格的に学んで指揮者となり、国内だけでなく、ロシアやベトナムのオーケストラを指揮してきた。演奏活動の中で「クラシックはハードルが高く、聴かない」といった声が多いことを耳にし、音楽に親しんでもらう機会を作ろうと、「歓喜の歌」が日本人の手で初めて福岡市で演奏された事実に着目した。
2024年の100年の節目に向けて、昨年春にプロ奏者ら有志で楽団を結成。保育園やフリースクールなどで演奏会を開きながら、「ハッピーバースデートゥーユー」を歌ってもらって動画に収め、合計3万人を目指す「3万人プロジェクト」を進めている。
「みんな、ベートーベンって知ってる?」
5月中旬には、福岡市南区の「しあわせの星保育園」で演奏会を開催し、園児や職員ら約70人に問いかけた。「彼の曲の、日本でのふるさとは福岡なんだよ。初めて演奏されて今年で100年だよ」と紹介すると、「えー、100年!」といった驚きの声が上がった。
園児らは、演奏に合わせて「ハッピーバースデー、ディア、ベートーベン」と大きな声で合唱。年長の園児(6)は「名前は聞いたことがあった。みんなで歌って楽しかった」と笑顔だった。井上正志園長(66)は「福岡で初めて演奏されたことを知り、音楽や歴史を身近に感じられたのではないか」と話した。
木村さんらはこれまでに20か所程度を回って約1200人分を撮影し、ユーチューブなどで発信している。ベートーベンの誕生日の12月までに1万人を超える規模を収容できる施設で、皆で歌うイベントも開こうと考えている。
木村さんは「100年も前に、福岡に第九を演奏できる楽器と人と技術があったことを、多くの人に知ってほしい。それをきっかけに、録音された音ではなく、心に響く生音に触れる大切さを感じてもらいたい」と話している。