東京農業大・前田和摩、「箱根路から五輪」見据え日本選手権1万mで大激走…日本歴代5位

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 世界を見据える箱根ランナーにとって、五輪の舞台は最上の夢。今夏にパリ五輪が控える中、そのターゲットに向かい、代表選考会となる5月3日の日本選手権1万メートルに挑んだ、学生3人のレースを振り返る。(編集委員 近藤雄二)

パリオリンピック・マラソン6位、赤崎暁が示した箱根路ランナーの成長曲線
日本選手権1万メートルで3位に入り、右手を突き上げる東農大の前田和摩=三浦邦彦撮影
日本選手権1万メートルで3位に入り、右手を突き上げる東農大の前田和摩=三浦邦彦撮影

自己ベスト42秒更新「自分もびっくり」

 潜在能力を爆発させる激走を見せたのが、東農大の前田和摩(2年)だった。

 序盤から先頭集団前方につけた。9000メートルで葛西潤(旭化成)がトップに出ると、ピタリと追走。残り2周での葛西の再スパートにも、唯一食い下がった。ラスト1周で力尽き、最後は太田智樹(トヨタ自動車)にもかわされたが、19歳にして堂々の3位入賞を飾り、右手を突き上げた。

 「自分でもびっくりした」というタイムは、約42秒の自己記録更新となる日本歴代5位の27分21秒52。駒大の佐藤圭汰(3年)が持っていたU20(20歳未満)日本記録を6秒98更新、田沢廉(トヨタ自動車)の日本人学生記録も1秒92上回った。

 昨年6月の全日本大学駅伝関東選考会1万メートルで、当時のU20歴代2位となる28分3秒51をマークして14年ぶりの全日本出場に貢献。同10月の箱根予選会でも日本人トップの個人9位で走り、チームを10年ぶりの箱根出場に導いた。

 1月の箱根は故障の影響で7区13位。今大会は棄権者が出たため、急きょ出番が回ってきた繰り上げ出場の立場だったが、物おじせずにチャンスを生かし、五輪切符のかかる舞台で傑出した才能を改めて示した。

 「最大限の走りができてうれしい。日本でわずかな人数しか出られないレースで、大きな経験になった。いつか五輪の舞台で勝負したいし、世界トップレベルの選手になれればと思う」。底知れぬスケールの逸材が、果敢な走りで自信を深めた。

駒沢大・篠原倖太朗「前田に負けたのは痛い」

自己ベストで6位入賞を果たした駒大の篠原倖太朗
自己ベストで6位入賞を果たした駒大の篠原倖太朗

 駒大のエース篠原倖太朗(4年)は、前田と共に終盤まで先頭集団で戦った。

 序盤は大学の先輩、鈴木芽吹(トヨタ自動車)の後ろで沈着にレースを展開。中盤以降も無駄な動きを抑え、終盤には5人での優勝争いに残った。8000メートル過ぎに遅れだしたが、最後まで粘って6位入賞。自己記録を3秒61塗り替える、27分35秒05をマークした。

 1月の箱根1区で区間賞。新主将に就任し、2月の香川丸亀国際ハーフマラソンでは、実業団選手を抑えて日本人トップの8位に入った。五輪代表を争う今大会も、自己新での6位入賞という結果を残し、高いレベルでの安定感が際立つ。

 それでも、駒大を率いるエースだけに「学生に負けるとやっぱり悔しい」。年下の他校の主軸に後れをとった無念が、先に立った。

 省みれば、勝利への執念が足りなかった。「今回はパリ五輪代表はそれほど狙わず、来年の世界選手権東京大会に向け、いい感覚をつかむというのがあった」。大学の先輩に当たる田沢廉(トヨタ自動車)は、4年時に世界選手権出場を果たしたが、常にそこを目指す決意を口にした。4年に1度の好機へ、もっと強い覚悟で臨めなかったか。

 「篠原が前田に負けたとなるとチームとしてもかなり痛い。もう一回巻き返せるよう頑張りたい」と篠原。実力は折り紙つき。かみしめた苦みを、さらなる飛躍への良薬とするしかない。

早稲田大・山口智規、調整ミスで屈辱の周回遅れ

序盤は積極的な走りを見せた早大の山口智規(左)
序盤は積極的な走りを見せた早大の山口智規(左)

 早大の山口 智規とものり (3年)は、思わぬ屈辱を味わった。

 レース前、全選手のトップをきってトラックに飛び出した。スタート直後も日本人3番手で前田の直前を走った。しかし、意欲が空回りしたかのように、3000メートルで遅れ始めるとズルズルと後退。前田と篠原には周回遅れとされ、28分55秒62で21位に終わった。

 1月の箱根では2区4位と快走し、2月の日本選手権クロスカントリーで優勝。世界クロスカントリー選手権代表の誇りと、日本クロカン王者の自信を胸に五輪代表選考会に挑んだが、「練習をやり過ぎた。最初から体が重かった」。明らかな調整ミスだった。

 「前田君は初の日本選手権でああいう走りをしている。もう一回考え直す。この負けは、1周遅れというのは、忘れちゃいけない」

 前田がつかんだ自信と、与えたサプライズの大きさが、今後の学生長距離界に何をもたらすのか。まぎれもなく、意義深い、五輪代表選考会になったはずだ。

箱根駅伝おすすめ

スクラップは会員限定です

使い方
「箱根駅伝」の最新記事一覧
記事に関する報告
5385830 0 ニュース 2024/05/22 14:08:00 2024/05/22 14:08:00 /media/2024/05/20240522-OYT1I50107-T.jpg?type=thumbnail

主要ニュース

セレクション

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)