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経営再建中の東芝が2027年3月期まで3年間の中期経営計画をまとめた。計画作りを主導した池谷光司副社長は、三菱UFJ銀行出身で、三菱自動車工業副社長として構造改革に関わった。不適切会計問題の発覚から続く経営の混乱を終息できるのか。池谷氏に話を聞いた。(聞き手・橋谷信吾)
再上場を見据えた成長戦略
――新しい経営計画に対する反応はどうか。
「前向きな声が多く、地に足のついた計画だと認識してもらっている。経営陣の思いが伝わり、会社が良い方向に変わっていく、一緒に頑張りたいという反応も多い。すべての事業を地道に改善していきたい。
課題が残る事業にエレベーターや鉄道システムなどの事業を位置づけたが、それぞれの事業の実力や潜在能力は極めて高い。適切な対応を取れば、大幅な収益改善が見込める。東芝の技術やサービスは劣化していない。売り方を工夫すれば、短期で確実に収益は改善できる。
かがむだけの計画ではない。やりきることで、再上場を見据えた成長戦略が見えてくると思う」
エネルギーやインフラ事業に期待
――伸ばすべき事業は何か。
「成長をリードするのは、エネルギーやインフラに関連した事業だ。数年前まで成長が期待できない分野だったが、脱炭素への対応やデータセンター向けの電力需要増もあって、環境は大きく変わった。(政府が策定する)新しいエネルギー基本計画の議論も見極めながら、何をやるべきか、できるかを議論したい。
パワー半導体事業も成長が期待できる。石川県の工場では、生産能力を21年度の2・5倍に増やす。ただ、海外のトップ企業はもっと利益を稼いでいて、工夫次第で伸びる余地がある。さらなる成長に向けて、他社との協業などを検討したい。半導体大手のロームとは昨年末に発表した生産協力を進めたい」
――東芝は非上場企業になり、投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)を中心とする国内連合の傘下に入った。
「出資頂いた企業には大変感謝している。期待に応えるにはまず、会社をきちんと再生して成長軌道に乗せることだ。その中で、自前でやる事業とやり続ける事業、他社と組んでやる事業が見えてくる。その後で、出資企業の方々との連携を考えていきたい」
――50歳代以上を対象に、国内従業員を最大4000人削減する計画を示した。
「頑張った人が報われるような制度に変えていきたい。営業、生産、開発と、あらゆる従業員が適格に評価される仕組みを1年間かけて全社で議論していきたい。男女や国籍、年齢を問わず、より評価されるような仕組みを考えたい」
――25年9月までに、本社を川崎市に移す。
「現場に寄り添う本社だと話している。東芝は各事業部門の力が強い。特に15年に不適切会計問題が見つかってから、遠心力が働き、本社と事業部門に溝ができた。事業部に収益責任を持ってもらう一方で、各事業の協業や力を入れる分野の決定は本社がする仕事だ。未来志向であるべき本社と事業部の関係を作っていきたい。本社が事業部門をサポートし、適格に指示を出せる組織作りを急ぎたい」
東芝の新しい中期経営計画 国内従業員の6%に相当する最大4000人を削減するなど構造改革を進め、捻出した資金を成長事業に集中的に投資する計画。事業のリスク分析を高度化させ、徹底した費用削減を行い、27年3月期までに営業利益を約10倍に引き上げることを目指す。
◆池谷光司氏(いけや・こうじ) 1981年慶大経卒、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。企業再建の案件を多く手がけ、三菱東京UFJ銀行専務執行役員営業第一本部長などを歴任。2016年に三菱自動車工業の代表取締役副社長に転じた。東芝の非上場化を主導した日本産業パートナーズの副会長を務めながら、23年12月から東芝副社長。神奈川県出身。