「社会保険料の負担増で消費増につながらず」「全世帯型への改革、政府に言い続ける」…経団連・十倉雅和会長
完了しました
「財界総理」とも呼ばれる経団連会長を務めている十倉雅和会長の任期が1年を切った。2024年春闘では物価上昇を追い風に労働組合側と協調して、会員企業が約30年ぶりとなる高い水準の賃上げを実施した。経済の好循環の実現には課題も残る。十倉会長が読売新聞などのインタビューに答えた。(石黒慎祐)
男女ともに働く時代に制度合わず
――大幅な賃上げが実現した今年の春闘を振り返って。
「経団連と企業の社会的な責務として、賃上げのモメンタム(勢い)の維持向上を呼びかけた結果、歴史的な水準だった昨年をさらに上回る高い水準の賃上げが実現した。
構造的(持続的)な賃上げの実現には、働き手の7割を雇用する中小企業が賃上げできる環境の整備が重要となる。経団連も会員企業の行動原則を定めた企業行動憲章を改定し、大企業と中小企業の取引の適正化を浸透させていきたい」
――賃上げを消費につなげるためには、何が必要か。
「社会保険料の負担が増え続けると、賃金を上げても消費増に結びつかない。現在の制度は、専業主婦が当たり前だという時代に作られたものだが、現在は男女がともに働き、男性も家事や育児を分担する。時代に合わない制度になっている。
若い世代は、将来への不安も大きく、これも消費増につながらない理由だ。全世代型の社会保障改革を進めるように、経団連として、政府などに正論を言い続けていく」
――人口の減少も日本経済の大きな課題になっている。
「産業競争力の強化に向けて、有為な人材が日本で働くことを選び、活躍できるような環境の整備が不可欠だ。経団連に新たに、外国人政策委員会を設置し、受け入れ環境の整備について、議論していきたい。
この分野で人が足りないからという日本側の都合だけでは、見透かされる。円安で給与水準も低くなっており、(海外の方に)日本を働く場所として選んでもらえるような具体策が必要だ。働き手の確保という観点では、多様な働き方ももっと認められるべきだ。
女性の労働参加率は上がってきたが、男女ともに子どもを育てながら活躍できるよう、働き方改革を進めていく」
持続可能で公平・公正な経済社会を
――任期は残り1年を切った。どんなことに力を入れたいか。
「少子化に加え、日本は資源を持たないという大きな制約を抱えている。これは一つの政策だけで解決できる問題ではない。環境、イノベーション(技術革新)、経済外交などを柱に、40年頃をめどとする中長期のビジョン「フューチャーデザイン2040」というものを25年1月に発表し、持続可能で、公平・公正な経済社会を実現したい」
――次の会長の人選で重視することは。
「経団連も以前と比べて、社会全体に貢献しなければならないという役割や意識が強くなっている。社会経済全体を大局的に捉え、経済界の意見をまとめて発信できるような人を選んでいきたい。(経営者としての能力も)もちろん必要だ。選ぶのに困るぐらい、候補がいる」
◆十倉雅和氏(とくら・まさかず) 1974年東大経卒、住友化学工業(現住友化学)入社。欧州駐在を始め海外経験が豊富で、2011年に社長、19年から会長を務める。経団連前会長の中西宏明氏が病気を理由に辞任したことから、21年6月、第15代経団連会長に就任した。兵庫県出身。