東京混声合唱団「八月のまつり」…厳粛な雰囲気の中で再生祈る「原爆小景」

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(c)中村紋子
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 ヒロシマの惨禍を伝える原民喜の詩に、林光が音楽を付けた合唱組曲「原爆小景」。この曲を毎年8月に東京混声合唱団が繰り返し歌い続けて45回目、「林光メモリアル」とうたった鎮魂の祈りは何を伝えるのか。

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 第一曲「水ヲ下サイ」では、犠牲者たちのうめき声が次第に大きくなり、<天ガ裂ケ/街ガ無クナリ>で苦痛は頂点に達する。しかし、合唱はぐっと感情を押し殺し、絶叫の代わりに暗いハーモニーを聴かせる。それがことばの激しさを包み込み、音楽は節度を保つ。

 キハラ 良尚よしなお の指揮は、詩と音楽の心情にぴったり寄り添いながら、続く「日ノ暮レチカク」でも、この世ならぬ地獄の光景をあくまで美しく描き出す。男声のささやくような弱音や女声の透き通った高音など、水際だった合唱技術もあいまって、美しさと原爆への抗議は矛盾しない。

 終曲「 永遠とわ のみどり」で希望の光が差すと、ようやくこわばった音楽の表情がやわらいだ。厳粛な雰囲気を保ったまま、混声合唱の鮮やかな色彩が生命の再生をことほぐ。

 プログラム後半は趣を変え、ベテラン寺嶋陸也のピアノが加わり、林が作曲した「岩手軽便鉄道の一月」と編曲した「日本 抒情じょじょう 歌曲集」からの抜粋などが披露された。寺嶋のドライで 明晰めいせき なタッチは、正確なリズムで合唱をたくみにリードし、雅趣に富んだ楽想をノスタルジックに彩ってゆく。

 最後に中山晋平の名曲「ゴンドラの唄」が始まると、8分の6拍子のピアノ伴奏に乗って、波間に浮かぶ小舟がキラキラした 水面みなも を進んでいく情景が目の前に広がった。死者の慰めから生者への励ましへ――。これこそ作曲家が「まつり」に望んだことだろう。(松本良一)

 ――8日、東京・勝どき、第一生命ホール。

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5742324 0 音楽 2024/08/30 17:00:00 2024/08/30 17:00:00 2024/08/30 17:00:00 /media/2024/08/20240828-OYT8I50030-T.jpg?type=thumbnail

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