[エンターテインメント小説月評]アニメでもおなじみの一休とは、一体どんな人だったのか…風狂の禅を極めようともがく姿を描く木下昌輝さん渾身の一冊
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今の40、50歳代が幼い時、最も身近に感じたお坊さんは、人気アニメ「一休さん」の主人公だろう。頓知で将軍をやり込めるような話は後世の創作らしい。では実際の一休宗純はどんな人だったか。木下
室町時代、京の臨済宗の寺で千菊丸(後の一休)は、高僧になれという母の願いを胸に学問に励んでいた。長じて詩才を認められるものの、腐敗した宗教界に反発。心身を害し死に近づくほどの苛烈な修行に身をやつす。
物語は南北朝統一後から始まるが、やがて
人と船が主役
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波乱の漂流記のリアリティーを高めているのが、
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阿野
腕は立つが繊細な庸三と人たらしで冷酷な性格の俊輔。2人の心の
過去の自分に立ち向かう
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ガルシア・マルケスの『百年の孤独』の文庫化が話題だ。同じ日に同じ新潮文庫から同文庫史上最厚の本として出たのが、マット・ラフ『魂に秩序を』(浜野アキオ訳)。そのあまのじゃくな登場に興味を引かれ、1088ページを読みふけった。
米シアトル近郊に住むアンドルーは、多重人格障害者アンディの別人格。アンディの頭の中にある内的世界の家には酒好きのアダム、サムおばさんら多数の別人格が住み、アンドルーが管理者となって、体を動かす時間を分け合い暮らしている。28歳のある日、彼の勤め先の新興企業に、多重人格を抱えた女性ペニーが現れる――。
「ボーイ・ミーツ・ガール」的な青春恋愛譚、米国を横断する「ロード・ノベル」、そして過去を巡るミステリーにもと変幻自在。口が悪かったり洞察力があったりと人格たちは個性豊かでにぎやか。宿主を助けようと協力し奮闘するさまが愛らしい。
『愚道一休』が禅問答や座禅で心を無にする内面探究に向かうとしたら、本作はむしろ内面世界の煩悩のような人格たちと触れあい、心を成長させてゆく話。過去の自分に立ち向かう勇気と人生賛歌を強く感じた。(文化部 佐藤憲一)