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これまで見てきたように、長く停滞していた日本ジャズ界だが、上原ひろみ(ピアノ)、黒田卓也(トランペット)、BIGYUKI(キーボード)、挾間美帆(作編曲)といった新たな若い才能が世界的に飛躍することで、近年活況に転じていると言えよう。それを強く印象づけられたのは、2018年2~5月に3人の若手が大手レコード会社から相次いでデビューしたことだった。
「日本的な叙情性、ジャズとして表現すること目指す」…ドラマー福盛進也
ドラマーの福盛進也がドイツの名門レーベル「ECM」から出した初アルバム「フォー・トゥー・アキズ」は、音数を絞り、さしずめ水墨画を思わせるような、先鋭的なジャズを打ち出した。
15歳でドラムスを始め、高校時代にチック・コリアを聴き、ジャズにひかれていったという。高校3年で米国に渡り、テキサス大学アーリントン校やボストンのバークリー音楽大学などで、ジャズを学んだ。
「当初はビバップを追求したが、周囲の技術至上主義的な雰囲気に違和感を覚えるようになりました。そんな時、
自分のやりたいジャズを求めて、13年にドイツのミュンヘンに渡った。ライブ活動をしながら足場を固めていく。ECMがよく利用するオスロのスタジオでデモテープを制作し、同社に送ると、契約の声がかかった。「まさに計算通りでした」と笑う。そして、「ライブでも『荒城の月』など日本の曲を演奏し、自分の持ち味にしている。自作曲も含め、日本的な叙情性をジャズとして表現することを目指している」と語っていた。
トランペットとピアノの二刀流…曽根麻央、16歳で初アルバム…甲田まひる
米国の名門、バークリー音楽大学の大学院を卒業し、トランペットとピアノを演奏する“二刀流”の曽根麻央は2枚組みのアルバム「INFINITE CREATURE」でデビューを果たした。正統派ジャズもエレクトリック・ジャズもこなし、ステージでは左手でキーボードを弾きながらトランペットのソロを吹くという離れ業も演じる。
16歳の最後の日に初アルバム「PLANKTON」を出したのがピアニストの甲田まひる。ビバップの巨匠、バド・パウエル(ピアノ)を敬愛し、その難曲「ウン・ポコ・ローコ」「テンパス・フュージット」を取り上げる一方、自作曲も2曲収めた。その頃からファッションモデル、女優としても活躍しており、スター性満点の新星と期待したのだが、その後、ヒップホップ、R&Bをベースとするシンガー・ソングライターに転身した。いずれまたジャズ作品を出してくれることを願っている。
ピアニストRINA、田中鮎美…アルバム発売、国際舞台へ
いい流れは、その後も続いている。米バークリー音楽大学に留学、卒業後はニューヨークを拠点に活動していたピアニストのRINAが2020年にデビュー。初アルバムについては、「共演者の持ち味を曲作りのヒントにした。例えば『J.J’s Painting』という曲は、ジェローム・ジェニングスのブラシを使ったドラミングが映える曲を意識した。アマチュア時代に作った曲も共演者2人の演奏スタイルに合うよう、手直しした」と話していた。コロナ禍でライブがままならない不運に見舞われたが、昨年ロチェスター・インターナショナル・ジャズ・フェスティバルに出演するなど、国際的な活動を展開する。
16年にデビューしたピアニストの田中鮎美はその後、ECMと契約し、21年にアルバム「スベイクエアス・サイレンス」を世界発売した。音の隙間を生かし、漂うような幽玄美を出現させている。バークリー音楽大学卒業のサックス奏者、馬場智章は、黒田卓也らニューヨークを拠点にする奏者が集まったJ-Squadで注目され、20年に初のリーダー作を出した。正統的なジャズをベースにしつつエレクトリックの要素も取り入れる、今のジャズ・シーンを象徴する俊英だ。
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