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「心は女性だ」と女湯で入浴した男 建造物侵入で逮捕の訳 #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

7月11日の夜に名古屋市にある温泉施設で女湯に入浴したとして37歳の男が逮捕されました。建造物侵入の容疑ですが、男はカツラをかぶるなどして女装し、「心は女性だ」と供述しているとのことです。同様の事件は昨年11月にも桑名市の温泉施設で起きており、このときも逮捕・起訴された43歳の男が「心は女性なのに、なぜ入ったらいけないのか」と主張していました。こうした問題について、理解の参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

▼名古屋市の事件で逮捕された男は、体の一部をタオルで隠すなどして入浴しており、「女性の裸を見るために入ったわけではない」と主張

「心は女性だ」温泉施設の女湯に侵入した疑い 男(37)逮捕 女性客が申告「変な人がいる」(CBCテレビ)

▼最高裁は性同一性障害特例法の手術要件を違憲としたが、戸籍上の性別変更と女性や男性のスペースに入っていけるか否かとは別問題

【解説】性別変更…生殖機能なくす要件は違憲 最高裁が初判断 今後どうなる?(日テレNEWS)

▼不特定多数が利用するトイレや更衣室、プール、休憩室、シェルター、病室といった女性用のスペース全般に同様の課題がある

43歳男「心は女なのに…」温泉施設で女湯に侵入し現行犯逮捕 性別を巡る公衆浴場のルールと多様性への課題(東海テレビ)

▼一方で、「自分は性同一性障害で、見た目は男だが、心は女だ」と偽り、女性にわいせつ行為をして懲役6年の実刑判決を受けた男もいる

【速報】「見た目は男性、心は女性」と偽り… マッサージしながら性的暴行やわいせつ 57歳男に懲役6年の実刑判決「性自認を偽って警戒を解いた狡猾な手口」(MBS NEWS)

エキスパートの補足・見解

温泉施設や銭湯などは、公衆浴場法で「風紀」に必要な措置を講じることが義務付けられています。男湯と女湯を分け、混浴を禁止するというのもその一つです。問題は男女の区別方法ですが、トランスジェンダーを巡る社会情勢などを踏まえ、厚生労働省が昨年6月に通知を出しています。

それによれば、「風紀の観点から混浴禁止を定めている趣旨から、身体的な特徴をもって判断する」「浴場業及び旅館業の営業者は、例えば、体は男性、心は女性の者が女湯に入らないようにする必要がある」とのことです。

すなわち、本人の性自認や戸籍上の性別とは全く無関係に、温泉施設や銭湯などでは男性器があるか否かといった身体的特徴に基づいて男女を区別するというのがルールとなっています。したがって、外見が男性なのに女湯で入浴したら、動機が何であれ、「正当な理由」がないということで、刑法の建造物侵入罪が成立します。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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