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「ここまで売れた時計は見たことがない」シチズンで「史上最も売れた」時計はなぜ生まれたのか、モノ作り面だけでない新たなヒットの要素も

7/13 8:02 配信

東洋経済オンライン

 シチズン時計の普及価格帯の機械式腕時計、「”TSUYOSA” Collection」が世界的なヒットを巻き起こしている。

 2021年、アジアで販売を開始。翌年に欧州で発売され、そこで一気に人気に火がついた。2023年にはアメリカや日本にも投入され、シチズンブランドで最も売れた時計となった。

 シチズンは2024年でブランド誕生100周年を迎えるが、社内では「シチズン史上、最も売れた時計」との声も上がる。いったい何が世界的ヒットにつながったのか。

【写真】黄色カラーを前面に打ち出したフランスの店頭広告やアメリカでのシチズンの売り場の様子

■「ラグスポ」のトレンドに乗る

 このコレクションは、1980年代に中国でヒットした「NH299 Series」をモチーフにしており、デザインはいたってシンプル。その中でも1つの特徴が、イエローやターコイズブルーなど、文字盤の豊富なカラーバリエーションにある。

 文字盤は38㎜径と小ぶりで男女問わず使える。表面には頑丈なサファイヤガラスを採用し、ステンレスバンドは付け心地の良さにこだわる。それでも、自社グループ製のムーブメントの採用などで、国内価格を約6.5万円(ヨーロッパでは299ユーロ、アメリカでは450ドル)に抑えた。

 こうしたモノ作りは、「ラグジュアリースポーツ」というトレンドを意識したものだった。高級感や耐久性を保ちつつ、シンプルでスポーティーな要素を取り入れた時計。最近ではロレックスやオメガなどの高級時計も、この「ラグスポ」の要素を取り入れている。最新のトレンドを押さえた機械式腕時計を手頃な価格で提供することで、普段使いの時計にも上質さを求める消費者の心をとらえた。

 ただ、大ブレイクの要因は商品面だけではない。契機となったのが、2022年に販売を開始したフランスで、この時計に「愛称」がついたことだった。

 その愛称が「TSUYOSA」。誰がつけたかは不明で、日本語の「強さ」という意味があるわけでもない。何となく日本語らしい響きという程度のものだったようだ。

 それが瞬く間に、SNSで拡散。ファンの共通言語として浸透した。「TSUYOSA」のハッシュタグがついた投稿は、フランスからはもちろん、欧州全域、インドネシアなどアジアからも発信され、2024年2月時点で7500件以上に達する。

■ネット上の拡散をシチズンが「追認」

 もう1つ、ネットで拡散した要素として「比較対象」があったことが挙げられる。

 ちょうど同じ時期に、スイスの時計ブランドが同じようなコンセプトの時計を発売していた。比較対象があると、人は商品の特徴を捉えやすくなる。実際、YouTubeには、時計メディアや個人コレクターが商品のスペックや装着感を比較する動画であふれた。拡散したネット上の情報が一般消費者にもリーチし、「気になる」から「購入を検討する」段階にまで関心を引きつけた。

 そして、こうした事態をシチズンが「追認」する。このコレクションには品番しかなかったが、公式にブランド名を「“TSUYOSA” Collection」としたのだ。公式ブランド名には引用符が付くが、そこにはもともとファンが付けた愛称という意味合いがある。

 ファンによる愛称をブランド側が正式に採用するのは珍しい。シチズンではブランドマネージャーに商品企画部、宣伝部などが加わり検討したが、議論は二転三転したという。海外向け商品の開発責任者・平松恭典氏は、「最初はダメだろうなと思っていたが、今までと同じことをやっていても仕方ない。新しい試みだからこそやってみようということになった」と振り返る。

 「“TSUYOSA” Collection」は現在、欧州における時計売上高の約2割を占める。今回のヒットが市場拡大に大きく貢献し、2023年度、シチズンの欧州向け売上高は699億円と、過去10年間での最高水準に達した。

 シチズンの調査によると、「“TSUYOSA” Collection」は若年層に人気がある。アメリカでは10代後半~30代前半の購入割合が、シチズンの他のブランドに比べ2倍以上の水準に達する。「今までシチズンは実用的で、少し無味無臭なイメージを持つお客様も多かったかもしれない。TSUYOSAのヒットはそうしたイメージを変えるきっかけになる」と平松氏は語る。

 シチズンはアメリカなど海外での販売に強みを持つ時計メーカーだ。2008年に買収したアメリカのメーカー「ブローバ」や自社製の「プロマスター」などをグローバル展開、ブランドごとに市場に浸透させてきた。その中で課題だったのが、そもそもの「シチズン」ブランドをいかに浸透させていくかだった。

 今回のヒットが「シチズン」ブランドの認知向上につながったことは間違いない。新たな販路も獲得しており、今後は「“TSUYOSA” Collection」を入り口に、独自電波時計技術の「エコ・ドライブ」を搭載した腕時計などの販売につなげる戦略を打ち出す。

■ヒット商品をブランドの柱にして成長

 平松氏は、「単純にお金をかけて宣伝をするだけではなく、いかにコレクターに響くものを作れるかが大事。ブランドが意図して大ヒットを生み出すことは難しいが、今後もトレンドを捉えた時計作りを続けていく」と意気込む。

 2023年にはPANTONE社とコラボしたアジア限定モデルを発売。文字盤の目盛りに改良を加えるなどアップデートを重ねながら、ラインナップの拡充を進めている。

 今後も新製品を投入、最新のトレンドを追求することで、息の長いブランドになるよう育てていく方針だ。グローバル戦略を成長の要に掲げるシチズンにとって、「“TSUYOSA” Collection」が海外市場を切り開く先鋒の役割を果たすことになりそうだ。

東洋経済オンライン

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最終更新:7/17(水) 14:21

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