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19
祖父と一緒に厨房へ行くと、甘い匂いが立ち籠っていて、スポンジに悪戦苦闘している料理長たちがいた。
「何を作っているんだ?」
そうだった。お祖父様にはまだ話してなかった。
「ミソカのたんじょうびようのスイーツです。なまクリームを、たっぷりつかうスイーツです」
祖父が、スポンジをひとつまみ食べた。
「……パンとは違う新しい口当たりだ。ルチル、これと生クリームをどうするんだ?」
「フルーツサンドとおなじですよ。これはスポンジといって、スポンジのあいだになまクリームとフルーツをはさんだものを2~3だんかさねて、まわりもなまクリームでおおうんです。うえにフルーツをかざれば、ケーキというスイーツになります」
「パンよりも甘く軽く食べられるってことか」
「はい。ただなまクリームがおおいので、パンとはべつのいみでおもいとおもいます。でもふしぎなことに、ごはんのあとにもたべられるんです」
「確かにこのスポンジというものだと、ご飯の後でも食べられそうだ」
良案を思いついたというように、ルチルが1度だけ手を叩いた。
「そうだ! おじーさま! カフェをだしませんか?」
「カフェとは、なんだ?」
「スイーツとのみものだけのレストランです」
まぁ、そんな簡単にお店を出せるとは思ってないけどね。
カフェがあればいいなぁと思っただけ。
目を見開いた祖父に抱きしめられ、頬にキスをされたので、戸惑いながらも祖父の頬にキスをし返す。
「いい案だ。フルーツサンドの人気が衰えなくて、レストランだけでは大変だったんだ。ルチルは本当に天才だ。女神だ」
「ありがとうございます」
なんと!? 簡単に出せるのね!
さすが公爵家、さすがお祖父様。
再度頬にキスし合っていると、料理長から遠慮気味に声をかけられた。
「それで……あの……今日はスポンジを味見しに来られたのでしょうか?」
「ああ、そうだった。用事は違うんだ」
「りょうりちょう、かんてんってしってる?」
「寒天ですか……それは、どういったものでしょうか?」
「ゼラチンよりもかたくかたまるの」
「ゼラチンよりも……うーん……」
やっぱり無いか。
他のスイーツ考えるしかないのかなぁ。
キラキラしたスイーツかぁ。
「あ! あれのことじゃないですか、料理長!」
若い料理人の1人が声を上げた。
「あれ?」
「はい、先月ゼラチンと間違えて買ってしまった粉です」
若い料理人の言葉に、他の料理人たちが固まったのが分かった。
発言した料理人とは違う、若い料理人の顔が青くなっている。
料理長が、祖父にゆっくりと頭を下げた。
「間違えた?」
「はい……報告をせず申し訳ございません。
ゼラチンの粉が少なくなってきたので、見習いに王都まで買いに行かせたのですが、いつもの店が閉まっていて違う店で買ったそうです。店主にゼラチンと聞いて買ったそうなんですが、使ってみるとしっかりと固まってしまって……いつも買う金額の半分だったのと、賄いに使えばと思い、報告を怠っておりました。申し訳ございません」
「ああ、いい、いい。そんな事気にしなくていい。新しく見たことのない食材は買っていいと、いつも言ってるだろ」
「しかし、今回は間違いでしたから、きちんと報告すべきでした」
「気にするな。それに、嘘を言って売った店主が悪いんだから」
「タンザ様、ありがとうございます」
「「申し訳ございませんでした。ありがとうございます」」
料理人全員で頭を下げている。
祖父は、再度「気にするな」と優しく声をかけていた。
「そのこな、みせてもらってもいい?」
「はい、ただいま」
すぐに持ってきてくれたけど……
うん、あたしも見た目じゃ分かんないわ。
「お嬢様、寒天でしょうか?」
「どうかな? いちどつくってみましょう。じょうずにできれば、かんてんです」
「分かりました。何を作りますか?」
「こはくとうです」
鍋に寒天と水を入れ、火にかけながら寒天を溶かす。
次に砂糖をいれ、煮たったら弱火で煮詰める。
糸がひくようになれば火を止め、100%ジュースを混ぜる。
冷やして固めたら、三角や菱形、四角になるようランダムに切る。
「あとは3っかほどほうちすれば、かんせいです」
「これはまた簡単ですね」
「ルチルが言ったように、宝石のようなスイーツだな」
「はい、キラキラときれいです」
3日経ち、厨房に見に行くと、砂糖が結晶化して周りが薄ら白くなっていた。
1つ食べると、外はシャリッとしていて、中はクニュッとしている。
「うん、ちゃんとできてます」
「私には甘すぎるな」
「おじーさま、ジュースではなくみずをふやして、リキュールをいれてもおいしくなるはずですよ」
「大人にはそっちの方がいいかもしれないな」
リキュールを使った琥珀糖も作ってもらった。
見本として透明の袋に色違いの琥珀糖を数個入れ、リボンをしたものを、父がナギュー公爵家に持って行った。
結果、娘のシトリンがいたく気に入り、ゼリーを回避することができた。
が、琥珀糖にシトリンという自分の名前を付けたいと我儘を言い、また父を困らせたことにルチルは、ナギュー公爵家の令嬢には絶対会わないと心に誓ったのだった。
弟ミソカの誕生日パーティーは、家族や使用人たちにケーキを喜んでもらえて成功した。
秋の残りの日々は、栗拾いや芋掘りなどをした。
この世界には何故か栗ご飯が無く(お菓子じゃないのに)、栗ご飯は領地での収穫祭で、公爵家が領民に振る舞うご飯になった。
冬には新年祭があり「栗きんとん食べたい」と猛烈に思い、ねっとりと甘い栗きんとんを家用に、栗の味がしっかりとした茶巾絞りの栗きんとんは王宮の新年祭の集まりの時に王家に献上した。
明日の投稿(更新)はお休みになります。明後日は投稿(更新)予定です。
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