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6年生
「ナタリー1人か?珍しいな。」
6年生になって、皆それぞれの分野で忙しくなってきた。
ミハイル様は王族として、学園の勉強以外にも学ぶことは多いし、ジャックは護衛としての仕事と訓練がある。
ユーグ様は既にご卒業されていて、ミハイル様の側近として、執務のお手伝いをされている。
選択授業の関係もあり、ナタリー一人で食事をするような機会も多かった。
今日も一人になりそうだったので、どうせだったらお天気も良いし外で食べようと、屋敷から昼食を持ってきていたナタリーだった。
「アレン様。そうですね。今日は一人だし、せっかく良いお天気なので、外で食べようと思いまして。」
「そっか。俺もだ。」
アレン様も忙しくない訳ではないけれど、比較的学園にいることが多かった。
そうしてナタリーが一人でいると、意外と気にかけてくれるのだ。
他に誰もいない小さなガゼボ。
アレン様は、少し迷ってから、近すぎもせず、でも声は聞こえる位置に座って落ち着いた。
「先日のユーグ様の婚約パーティー。とっても素敵でしたね。」
先週末にルクセン家の屋敷でユーグ様の婚約発表のパーティーがひらかれた。
侯爵家の嫡男であり、ミハイル様の一番の側近であるユーグ様の選ばれた方は、リラリナ学園で6年間同じクラスだったという、子爵令嬢だった。
「なんつーか、さすがユーグ様って感じだったよな。」
「本当に。ミハイル様すら、寸前までお相手を知らなかったと言うのだから、すごいですよね。」
聞けば学園の低学年の頃からずっと、密かにお付き合いされていた方だというのだから驚きだ。
最近の貴族は大体、リラリナ学園を卒業してから1年か2年以内で婚約、結婚することが多い。
そのためナタリー達よりも3学年上のユーグ様のお相手は誰だと、学園中、いや社交界中の注目の的だった。
それが実はずっと、誰にも知られずに、気の合う子爵令嬢と何年も愛情を育んでいたというのだから、もうさすがとしか言いようがない。
「大切にされていたのでしょうね。」
「そうだな。」
ユーグ様と年齢の近い女生徒達による、ユーグ様の争奪戦はすさまじかった。もし子爵令嬢とお付き合いをされていることが知られていたら、無事に婚約までいきつけなかっただろう。
婚約パーティーでは、ユーグ様と同じ学年だった令嬢たちが「なんであんな地味眼鏡がユーグ様と!」と悔しがっていたのが印象に残っている。
確かにお相手のフローラ・ベッカー嬢は、学園では目立たなくされていたし、眼鏡もかけていたけれど、婚約パーティーで眼鏡をはずしてお化粧されている姿は地味でもなんでもなく、華やかで可愛らしかった。
ユーグ様と並ぶと、本当にこれ以上ないと言うくらいピッタリで、まるでお二人が優しい木漏れ日に包まれているように見えた。
ミハイル様は、ユーグ様のように争奪戦などおこらないように、ナタリーが婚約者候補ということになっている。
ナタリーは女生徒の中で一番爵位の高い侯爵令嬢だ。
ナタリーを差し置いて大っぴらにミハイル様にアピールをできる女生徒は、他にはいない。
そうは言っても、卒業が近づいてきて、水面下ではいろいろな働きかけがあることを、ナタリーは知っていた。
正式な婚約発表までは、なにがおこるか分からない・・・と。
「お前まだ、仮のとりあえずの婚約者だなんだって、言ってんの?」
「ええ。」
ミハイル様にもユーグ様のように、学園に通われている間に、誰かに出会われたなら。
そうしたら、ナタリーは・・・・・・。
「アレン様こそ、誰かお考えになっているのですか?」
ユーグ様が正式にご婚約されて、次の社交界の興味は完全に、アレン様のご婚約者は誰かということに移っている。
「俺?俺はまあ、適当でいいや。政略結婚でも別にいいし。」
「そんな。真剣に考えないと、お相手のかたにも失礼です。」
アレン様相手には、ついつい遠慮がなくなってしまう。
「正式な発表までは、なにがあるか分からないしなー。」
でもアレン様はそう言ってはぐらかして、持参したらしいパンにかぶりつかれたのだった。